労働基準監督署調査

労働基準監督署が行う調査は、労働基準法や労働安全衛生法が順守されているかをチェックする臨検監督があります。

 

(1)臨検監督の種類

①定期監督

労働基準監督署が、その敏の監督計画に基づき、過去の監督指導結果等も踏まえ、労働条件、安全衛生全般について、調査を行います。

以前は、予告してからの立入り調査が通常の方法と思われていましたが、現在は原則として予告なしで突然訪問することになっているようです。

他にも、「集合監督」と呼ばれる、複数事業所を一斉に呼び出して行う方法があり、近年この方法が増えているようで、各事業所を訪問していたものを一斉に呼び出すことにより、効率的に監督指導できるようにしています。

 

②申告監督

労働者から法令違反等の申告があったときに行われますが、事前の予告がある場合とない場合があります。労働者から申告があった旨は、監督官が会社から質問されても通常伝えないようですが、場合によっては伝えることもあります。また、指定した日に呼び出されるケースもあります。

 

③災害時監督

一定以上の労働災害が発生した事業所に対して行われ、原則として、事前の予告はありません。

 

④再監督

以前に是正勧告を行った会社に対し、改善(是正)状況確認を行うもので、是正が一向になされず、不誠実な対応だと判断した場合は原則刑事事件に切替を行う。

 

 

(2)実施状況

各都道府県労働局では管下の労働基準監督署が実施した定期監督等の実施結果を毎年発表しています。東京労働局が公表した平成27年の概要は次の通りです。

 

①実施件数 8,871件

・建設業 3,289件

・商業  1,331件

・製造行 1,157件

②違反事業場数 6,711件 (違反率 75.7%)

(内容別)

・労働時間 2,155件

・割増賃金 1,861件

・安全衛生 1,664件

③ 違反率  75.7%

・接客娯楽業 83.3%

・製造業   80.8%

・商業    80.3%

 

④ 主要な法違反

・労働時間      2,155件 

・割増賃金      1,861件

・労働条件明示    1,433件

・健康診断      1,335件

・安全衛生管理体制    852件

 

4年前(平成23年は実施件数8,659件)と比べると実施件数は増加しており、また、今後の指導方針としてその中に「今後とも、労働条件をめぐる問題点を的確に把握し、認められた労働基準関係法令違反等については是正改善を指示します。また、法令違反を繰り返すなど悪質な事業主については、司法処分に付すなど厳正に対処します。」とあることからも、今後も監督指導の厳しい姿勢が窺がえます。

 

(3)重点項目および監督対象となる事業場

都道府県労働局は、厚生労働省が毎年策定している「地方労働行政運営方針」を踏まえ、局内の管轄事情に即した重点課題を盛り込み、都道府県労働局ごとに行政運営方針を策定して、計画的な行政運営を図ることとしています。したがって、この内容をチェックすることにより、その年の監督業務の重点項目の概要を把握することができます。

また、監督対象となるのは次のような事業場が考えられます。

①近年の労働環境の状況や監督結果から問題があると思われる業種および事業所
②特別条項付き36協定を届け出ている事業場
③自主点検(※)の結果、労災保険の過労死認定基準(H13.12.12.基発1063号)を考慮して調査が必要と思われる事業場

(※)36協定に特別条項がある場合、その時間の長さによって、「労働条件等の自主点検報告書(労働基準関連法令等の遵守状況を自ら点検し、その把握した問題点に応じ自主的な改善を図るもの)」という書類が送付されてきます。点検の結果、現実に長時間労働を行っている事業場の場合は、監督指導が入りやすいと思って間違いはないでしょう。特に労災保険の過労死認定基準には留意することが大切です。

また、この自主点検結果を報告しない場合は、より違反している可能性が高いと判断され、監督指導の対象になると考えたほうがよいです。

 

(1)突然の来訪への対応

監督官は1人で来ることが多く(地域や案件によっては複数の場合もあり)、一通り会社概要を聞いたうえで、本題の質問や書類等のチェックをしていくケースが多くあります。担当者不在の場合や給与計算や労務部門をアウトソーシング(弊社もサービス提供をおこなっています)しておられる場合は、「後日訪問し、書類等はその際に提示する」等の対応でもよいかと思われます。

監督指導に関しては、統一した基準に基づいて行われますが、対応は監督官の裁量による部分があるというのが、今までの経験から受ける印象です。担当者不在の場合であっても、タイムカード等わかる範囲で何かしら回収していくケースもあり、ケースバイケースと言えます。

 

(2)是正期日

是正勧告書には、是正すべき期日が記載されていますが、項目によっては「即時」と記載されたり「○月○日」と大体1か月程度後の期日が指定されたりします。

「即時」については、例えば「36協定が締結されていないにもかかわらず時間外労働をさせている」等、即時に是正しないと法違反を放置することになるというような項目が挙げられます。また、期日が指定されている項目については、期日までに完全に是正処理ができない場合もあるでしょう。もちろん期日までに是正するのがベストですが、努力しても時間的には厳しい場合は、期日までにできる内容とできない内容を整理して、できない内容については現在の取り組み状況と今後の見通しを説明して、前向きに対応している姿勢を示すことが大切です。監督官に納得してもらえれば期日の延期をしてもらえるケースもあります。

 

(3)遡及支払い

是正内容で多い項目の1つとして、「残業代の未払い」が挙げられますが、適正に割増賃金(時間外労働、休日労働、深夜労働)が支払われていない場合、不足分の遡及処理が発生します。未払い賃金の時効は2年間ですが、事案によって異なり、明確な基準はないですが、悪質な場合は2年間きっちり遡及されることもございます。

 

(4)是正内容を放置または虚偽の報告をした場合

労働基準監督署による是正勧告書の交付は行政指導ですので、会社はこれに従う義務はなく、また、指導内容につき改善しないことに対する罰則もありません。ただし、勧告書に記載されているのは労働基準法等の法令に対する違反内容であり、各違反項目に対する罰則が労働基準法等に規定されていますので、結果的には司法処分を科せられたりすることもあり得ます。労働基準監督官には特別司法警察職員としての権限がありますので、是正内容に従わず放置したり、繰り返し指導・韓国を受けたり、総合的にみて悪質と判断される場合じゃ送検される可能性もあります。

また、実際に改善してないのみ改善したと虚偽の報告をすると、労働基準法120条の罰則が適用されることとなり、結果的に悪質と判断されます。

 

(5)重要なチェックポイント

調査でチェックされやすいという視点のみならず、法的にも労務管理面からみても注意が必要なポイントは次の通りです。

 

①36協定・就業規則の届出、周知および労働者代表の選出方法
②36協定は限度基準に適合した協定であるか、実態はどうか
③割増賃金の適正な支払い
④法定休日の確保
⑤年次有給休暇の適正な付与(パート労働者も含め)
⑥労働条件通知書の交付
⑦安全衛生委員会等の設置、衛生管理者・産業医の選任(50人以上の事業場)
⑧長時間労働者への面接指導
⑨定期健康診断の実施

是正勧告を受けた場合、何を重視して、何から手をつけるべきかを判断する必要があります。

また、さらに重要なことはこれを機に労務管理の側面において、今後の会社のあり方を決めることです。

 

上記①から⑨に関する社内監査を行い、その結果如何によっては就業規則や賃金規定の変更、労使協定の締結を行い、また、その変更に関する社員への説明(説明会の開催)、給与の改定、服務規定の変更、ハラスメント対策、安全衛生委員会の仕組み作り、適正な労働時間把握方法の策定および実施に関する検討が必要になります。

 

弊社は、監督署調査対策を一緒に行わせていただく事はもとより、問題の起きにくい労務管理について問題解決の手順や優先順位もついて、迅速かつ的確に効果の高いアドバイスさせていただきます。

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